週末は古墳巡り

古墳とは、およそ3世紀から7世紀に築かれた墳丘状の墓のこと。その数、およそ20万基。

特集「DNAが語る古代ヤポネシア」日経サイエンス2024年2月特大号

日経サイエンス2024年2月特大号を購入。特集「DNAが語る古代ヤポネシア」の5本の記事を読了。

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縄文人の痕跡を現代人に探る」では文献[1]の研究を紹介。日本の現代人ゲノムから縄文人に由来するとみられる変異の保有率で日本本州の各地域差異を調べた。縄文人度合いを表す指標として、縄文人由来変異保有率(JAS)を提案する。現代日本人約1万人分のデータでJASを求め、都道府県別に5段階で色分けして図示、東北と関東の一部、鹿児島、島根で特に高く、近畿や四国で特に低い。また、都道府県別の縄文時代弥生時代の遺跡数の比率とJASに緩やかな負の相関の関係が見られ、四国や近畿で高く、関東や東北で低い。稲作の到着時期とも整合。さらに、JAS現代日本人の形質との関係を調べると、5歳児の肥満率と正の相関、喘息患者重症化率とは負の相関が見られたとのこと。

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「ゲノムで見る躍動の弥生時代」では、2018年から2023年に実施された研究プロジェクト「ヤポネシアゲノム」の成果を紹介。弥生時代後期の青谷上寺地遺跡(鳥取県鳥取市)から出土した109体分の人骨をゲノム解析した。解析できたのはミトコンドリアゲノムで30体以上、核ゲノムで13体。核ゲノム解析で得られた情報を主成分分析で、他地域や時代のデータと比較。同遺跡のデータは現代日本人集団(103人分)とおおむね重なるが、ばらつきは現代日本人集団と同じかそれ以上。ミトコンドリアゲノム解析では、同遺跡の32人中血縁関係のある人は3組で、10種類以上のハプログループに分類された。つまり、ほとんどが赤の他人。同遺跡の人的交流の多様性を示し、同遺跡が港湾遺跡で、出土する管玉の素材の産地が広域で、交易ネットワークがあった可能性が指摘されることと整合。また、ミトコンドリアゲノム解析で判明した13種のハプログループのうち縄文人の系統は1つ(M7a)で他は現代東アジアの大陸部で報告されている系統だった。同プロジェクトとでは、総数400体以上の古代人ゲノムを解析、先史時代の人の動きが複雑であることが明らかになっているとのこと。

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「アズキ 日本から大陸に渡った作物」では、考古学的に提唱されていたアズキが日本で栽培化されたという仮説をゲノム解析で検証した研究を紹介。農研機構に保管された7000種類以上のアズキのうち約100種類(東アジアを中心に10ヵ国、野生46系統と栽培49系統)の全ゲノムを解析。日中韓の栽培系統と日韓の野生系統が遺伝的に近いことを示した。次にアズキの葉緑体ゲノムを比較、東アジアの全ての栽培系統が日本の野生系統と限りなく同じ配列であった。この結果から、アフリカ起源のアズキが種分化を繰り返しながら東に繁殖域を広げ、その一部が日本列島にたどり着き、日本列島で栽培化されたアズキが大陸を西に戻っていったと考えられる。また、アズキの種子の色を決定する遺伝子の周辺が野生系統に比べ栽培系統でばらつきが低下していることから、野生の黒いアズキの中から赤いアズキを選んで栽培したこと、その選抜が始まったのが約5000年前と推定されたとのこと。

アズキのゲノムをほぼ完全に解読 - 農業生物資源研究所

「古墳に眠る人々の家族関係」では、岡山県津山市の全長35mの前方後方墳、久米三成4号墳の後方部と前方部にそれぞれある石棺に埋葬された4体の人骨をゲノム解析して被葬者の親族関係を明らかにした研究を紹介。

「縄文犬とニホンオオカミの深い関係」では、ニホンオオカミ9個体のゲノムを高精度に解析し、イヌや他のハイイロオオカミとの系統関係を明らかにした研究を紹介。

文献

[1] Modern Japanese ancestry-derived variants reveal the formation process of the current Japanese regional gradations. Watanabe Y., Ohashi J. in iScience, March 17 2023.

[2]『弥生人の成立と展開Ⅱ』,藤尾慎一郎, 国立歴史民俗博物館研究報告 242, 2023年。

[3]『人類の起源 古代 DNA が語るホモ・サピエンスの 「大いなる旅」』,篠田謙一着,中公新書,2022年。

[4] [調査研究活動報告] 鳥取県鳥取市青谷上寺地遺跡出土弥生後期人骨の核DNA分析, 国立歴史民俗博物館研究報告 第228集, 神澤秀明, 角田恒雄, 安達登, 篠田謙一, 2021年

[5] Sakai H, Naito K, Ogiso-Tanaka E, Takahashi Y, Iseki K, Muto C, Satou K, Teruya K, Shiroma A, Shimoji M, Hirano T, Itoh T and Tomooka N. (2015) The power of single molecule real-time sequencing technology in the de novo assembly of a eukaryotic genome | Scientific Reports.

[6]『岡山県埋蔵文化財発掘調査報告書 (30) 久米三成4号墳岡山県教育委員会,1979年3月。

[7]「ゲノム解析による岡山県久米三成4号墳被葬者の親族関係」 清家章,神澤秀明,篠田謙一,安 達登,角田恒雄。日本考古学協会第89回総会研究発表要旨,2023年5月。

[8]「全ゲノム情報から知るニホンオオカミ」, 寺井洋平,哺乳類科学,2023年

 

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